般若初登までの話

2017年夏のとある日、子どもらが登った岩を通谷氏が紹介してくれた。
事前に写真を見ていたのだが、岩はこじんまりしているものの質は良さげで夏の良い気分転換になりそうだと踏んでいた。

実際、子どもらにより適度に面白い6級から4級までがすでに充実。
その日のうちに二段まで追加。

程よいエリアで目論見通り良い気分転換になった。

これで十分満足だったのだが、気になることが一つ。
入口にどう考えてもシンボルであろう巨石が佇んでいる。

果たしてこれは登攀対象になるんだろうか。
好奇心でその日のうちに少しだけトライ。

結果は微妙なところ。
でも登れなくとも存在自体が美しい。

夏も終わりに近づき、通谷氏と周辺の岩の整備や課題のすり合わせに何度か訪れる。

聞けば掃除にかなりの時間を費やしているようで、本当に有難く思った

11月初め、季節は変われどやることは変わらず、通谷氏と話したり登ったり。
昼過ぎ、通谷氏は帰っていった。
私はとりあえず、またシンボルをやってみることに。

いざじっくり見てみると何故か濡れている。

仕方ないので周辺整備することに。
そうこうしていると下部は何とか触れそうなコンディションだという事に気付いた。

とりあえずやる。
花崗岩、相変わらず下部からシビアでスリップしまくるが何とか核心部であろう中間部に突入。
夏明けに核心部入口のヒールはマスターしていたのでそこから。

次の顕著なホールドまでかなり距離がある。
とりあえず安定して手を離せるポジションを探すべく、何度もあがり爪先で花崗岩の表面をズリズリするがどこもここもどうも合わない。

着地で足もよれるのであんまり長くはトライできないが、アンダー状フレークにジャムが決まることを発見。
しかもジャムの掛かりがとてもシビアで外れやすい。逆を言えば解除しやすいので、足からしっかりと落ちれる。ハイボールをやるには大切な事の一つ。
これで行こうと決めた。


安定して手を離せるポジションをものの、そこから次のホールドはかなり遠い。
さてどうしたものか…撤収。

11月13日
本格的にやることを決めた初日、心の準備は万端だ。
岩の前に立つ。

今日は岩が小さく思えた。
はたしてどうか、いざトライ。

前回発見したジャムポイントまでは安定していける。次の一手はやはり遠い。

手を出して大丈夫か、とりあえず手を出して落ちる。
無事着地、衝撃は想定内。登れる気配はまだない。

次の便、取りに行く動作を起こす。落下、無事着地。
ジャムが外れる反動で右に振られる。想定内、マット十分。

次の便、狙いの行く。距離が全く足りない。落下、無事着地。
動作前に溜めがいる。左足はジャムでロック状態なので、溜めれるとすれば右足のスメア。シューズを剛性のあるものに変えた。

次の便、狙いに。距離は出た、そして届いたがとらえきれず落下。
思った以上に右に振られる。ギリギリマット内……。

マットを敷きかえる。
ここまで攻めて大丈夫だということは、もはや大丈夫だ。

これで落下を容認、ある種悟った気がした。

そして次の便、問題の一手をしっかりととらえる。

その後、足場がない。
普段ならじっくり考えたいところだが、さくっと決めて次の一手に備える。

次の一手はリップ、そのリップまで距離があることは予想していた。
足が想像以上に悪い。
慌てたいところだが、そんな状況じゃない。

そして足を必要以上に固めて手を出す。

核心自体は手前の一手だったが、
私のクライミング的にはこの一手をさっくり出せたことが嬉しかった。
リップをとらえる、そして岩の上に。

登れたのだ。

動画

名を般若とする。
グレードは通谷氏の意向に沿って級段でつけようと思うが悩む。
掃除に数度、ロープにぶら下がったもののmoveは殆ど起こしていない。どれくらいの強度だったのだろうか。tiamatに比べればグレード二つ分くらい難しい気もするが、これまで登ったハイボールに比べれば少し易しいだろう。
ざっくりとだが、今のところ一応三/四段としておきたい。

その後、周辺を少し登り撤収。

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