「ヒスイ」カテゴリーアーカイブ

翡翠

3月のヒスイ公開にむけ

慌ただしく進んでいた公開準備も、段取りが決まってからは順調に進んだ。
雪、そして雨の影響でprojectの解決だけが残された。

トポの入稿は3月上旬。
このままでは流石に間に合わない。苦肉の策だが当日までには登れる見込みで名とグレードをつけることとなった。


やるしかない。

そんなプレッシャーのなか、まず先に「瑠璃ノ坏」の完全体が栗崎により完成。
その後「巨いなる黄昏(田嶋)」「スモーキーアゲート(ボブ)」などができていく。

そして、1本のビッグラインが残った。エリアの名が付いているproject「翡翠」。見込みではv11。

グレードだけ見れば、通えばいつか登れる範疇。だけど実際は違った。自身これまで避けてきた要素が1手に詰まっている。

「えぐいカチ」
「壁との距離を空けれない動き」

無対策では勝負にならないこと明らか。2月は上記2点を集中的にトレーニング。キーホールドの保持感はクマクリンプに近く、体幹トレもそれ用に組み替える。


3月終盤、時間がない。
いよいよ対峙。
チャンスは三日間。13日、16日、そして公開前日の20日。

3月13日

長雨のせいでしっとりするホールド。深追いはせず、後日に活かすべく練習。
トライしはじめに相性の悪さを実感する。もしかしたら達していないかもしれない。


ここで諦めるわけにはいかない。やれるだけやる。夕方、少しだけ感触がよくなってきた。深追いを決める。

16日のトライに支障は出そうだけど、今何か掴んでおかねばまたリセットされそうな気がした。
勝負は20日に。


練習感覚で跳び続けたある瞬間、
ふと、ランジがとまった。
捉えた瞬間何が起こったのか分からず。

[ 翡翠 v12 初登 ]

通えば出来るなんて絶対にない一手。
そういうものにどう向き合うか。

逃げ道をつくらず挑めたのは良い経験になった。
とはいえ、次に活かすことはもうないだろう。今後もやりたい岩をやる。


やりたい岩をやる。
えぐいカチ、そして壁との距離をあけれない動き。そういうものも面白いと感じれるようになった今、やりたい岩が少しだけ増えた。

これで、公開に向けた大きな準備は終わった。
あとは整えつつ当日を待つだけだ。

 

 

 

 

 

ヒスイ公開に向け

年明け、ヒスイボルダーの公開日が決まった。
9年前のメサ公開日と同じ3月21日。
いよいよだ。


1月後半

雪が降り続けエリアは閉ざされた。10年に一度の雪らしい。奇しくも9年前のメサ公開前も大雪で1ヶ月丸々入れない日が続いた。偶然とは思えない。


2月中旬

主要メンバー揃って現場に出向いた。
グレードの確認とともに話し合い、これまで放置していた岩もちゃんとやることを決定。作業量が大幅に増えた。

トポの印刷依頼は3月頭。時間がない。


できる限り見守っていようと思っていたけどさすがの最終局面。放置していた岩をやると決定した一端は私にもあるので動きはじめる。

雨上がりの日にざっと掃除を済ませ、とある晴れた日に下から順にまわった。

「ノボルベカラズ」

ガバを頼りに豪快に強傾斜を駆け抜ける好課題。ただしどのガバも吹っ飛びそうなくらいに脆い。だからこの名を。

「巨いなる黄昏」

メインクラスの巨石、中央ライン。ザ・垂壁な内容がとても好印象でスケールもあるので痺れる。ただしかなり脆い。

他もいくつかいい課題ができたがまたそのうち。
公開準備は続く。

ラムール・エブル

2023年1月
ずっとやっていたルーフのprojectが登れた。


発見当初より可能性は見えていたものの、2018年をピークにトレーニングをやめていたのでフィジカルが達していないのは明らかでトライを保留していた。

 

若手に「春の公開を目指すので1月中に登ってほしい」とお願いされ、応じるべく昨年暮れより通い出す。ひとつのエリアに通い詰めるのが苦手な私だけど、このルーフは長くやっていてもずっと楽しくいられた。好きなんだろう。


思ったよりも早くその瞬間は訪れた。


1月10日
コンディションは良くない、ただし流れは良かった。
通った甲斐あり自動化は完璧、栗崎の集大成「瑠璃ノ坏」の初登を見届け気持ちは入っていた。

『l’amour est bleu(ラムール・エブル)』

追い詰められていたはずなのに登れてほっとする感覚も高揚する感覚もなく、逆に滞在中ずっと楽しかった。


グレードは悩む、久々に悩む。

初登、再登含め近年登ったv13よりは明らかに難しい。かといって2018年に登った「AveMaria」に比べると数値ひとつ分明らかにやさしく。

一応 v13/14あたりにしておきたいが、やはり私自身に苦手も多いのでv13程度かもしれないことを補足しておきたい。

シーケンスが難解でパズル要素も強い。
動画をあげる許可はもらったが、このエリアの主導開拓者二人にならい導き出したmoveは伏せたい。ということでショートバージョンの動画を上げておく。

開拓は続く。

後日の話だけど、この後母指球のあたりを5針縫う怪我を怪我をしてしまい治った頃に大雪。この機を逃せば2月までもつれ込んでいただろう。運が良かった。

続く碧の道

碧の谷風そよぐ道。

岩探しの先駆者、故・野下善秋氏
氏の残した岩に続くを辿り広げてきた。それももうじき終着する。

残された道標を頼りに進んできたけれど、
どうしても辿り着けない岩があった。

2020年、とうとう若手が辿り着く。
激しく荒れた林道の先、私一人では絶対に辿り着かなかった。

ずっと探していた岩。すぐにでも登りたかったが導かれたのは私ではない。発見したのは先の世代、そんな彼らに託そうと決めた。私が辿り着かなかったのは、そういうことなのだろう。


岩のある山のすぐ下で農作業に励む地元の方々、
時折出会う地権者の猟師さん、
信仰のある山の麓の宮司さん、

関わる全ての人へ説明しつつ岩の整備を進めた。


2023年1月

とうとうメインの岩を栗崎が登った。


[瑠璃ノ坏]

栗崎だけではなくボブも、翡翠の岩や瑪瑙の岩の良質なラインを丁寧に登っている。
二人により周囲はボルダリングエリアに近づきつつあった。

2022年2月

公開に向け地元の方々に挨拶。
みんな笑顔で迎えてくれた。
きっと二人が上手くやってきたのだろう。

継承する者らもしっかり先を見据え道を守り進んでいる。
来たる終着点の先は…

碧の谷風そよぐ道。

ー記実ー
未開拓だった大分県西部から福岡県の石ころや壁を求め探し歩いていた故人、野下善秋氏。生前は雨の日などに登りに来てくれ岩の話を聞かせてくれた。かつて聞いた話や氏の残してくれた情報をもとに私も様々なところを歩いてきた。氏の通った道は私の道標にもなっていた。ヒスイもその一片である。

 

 

 

 

 

くる年へ繋ぐ12月

2022年は、思うよう良い岩が登れた。
気持ちにも余裕が出来たので12月は衝動に流されず難しい岩に絞ろうと決めた。

狙うは3本。

1.   ヒスイのルーフ(通称LEBproject)
2.    VV3.0project
3.    ゾウネルラproject

普段であればその時格好良いと思う岩を、その瞬間最大熱量で狙う。
その衝動的熱量を捨て限界値を。3本。

 


最初に狙いを定めたのは

3.ゾウネルラp (よだかの岩)

市蔵のスタートからカンパネルラにつなげるライン、ゾウネルラ。実は初秋にmoveを発見していた。

12月8日 スタンドで初登

新たなシーケンスの発見で当初よりやさしくなってしまったものの、「ここが通せたら凄いラインの可能性が広がるな」なんて感じていたブランクセクションの突破に成功。

となると後はルーフの付け根から繋げるだけだ。
なんて簡単に書いたが下部はv10。果たして繋がるのか。

ゾウネルラlow start project

12月半ば、雨上がりでの挑戦にも関わらずラスト一手までは攻めることができた。
このまま通い勝負をかけようかと思った。

 


その矢先、仲間から春にヒスイを公開したいと相談を受けた。
となると1月中にヒスイのprojectは登っておきたい。ゾウネルラlowは春でもできる。仲間の気持ちを汲み、ヒスイのルーフを優先することにした。

 


1、ヒスイのルーフ

果てしないルーフ。
二日ほど通い全ての動きが解析できた、同時に自動化も進む。ルーフの奥行きが身近なものとなった。

となると早めに勝負をかけたい。そんな気持ちと裏腹に雪が。山が白く覆われる。雪解けルーフは染み出し年内の完成は絶望的となった。
それでも通う。できるパートの自動化をはかる、来たる瞬間をより早く迎えるために。

湿気た山で終えた2022年の岩登り。
岩の上に立つことは叶わなかったけど、
ゆく年に悔いなく、くる年を期待を。

2023年1月へ。

 

動画 よだか開拓記10【ゾウネルラ】