8月中頃
知人が来店。とある花崗岩の写真を見せてくれた。ぱっと見、よくわからない岩だったけどスケールと岩質だけは理解できた。どちらにせよ今やっているprojectをやれる気候でもなかったので、見に行くことに。
翌日、早速偵察。私の足では空身で15分の山登り。(後に出逢う地元の方はこの山自体を15分ちょいで一周する!)
素晴らしい岩だった。もし成っているのなら、とんでもないクオリティの岩だ。スケールは最上級の課題「ニライカナイ」に劣るものの、岩の美しさやラインの顕著さは圧巻。
雨上がりの気温高めという最悪のコンディションのなか少しだけやってみたが、実際のところ勝負にならなすぎてよくわからなかった。
9月
雨が続く。晴れたとしても山自体が水を持ち岩は乾かない。
トライを諦め、掃除に徹した。岩の表面に付着した砂と苔を落とし、パラパラした表面の結晶や脆いフレークの縁を落とす。この時点でこの道筋の可能性は理解できたわけだが、最上部のヤバさは考えないことにした。
9月30日
ようやくまともにトライできるコンディションとなる。
十分悪い下部をこなし、上部へ。リップまで綺麗に続くダイク(岩脈)も、中間部からは全く使えないものとなる。リップ手前のサイドポケットがとにかく狙いづらい。
最上部が核心となると気になってくるのはランディング。着地できる箇所が狭い。そこを超えて落ちるとかなり下まで落とされる。
この日は精神的にかなり充実していたにも関わらず、一手が出ず。敗退を決めた。難しさによる敗退。この瞬間、私の思考はこの岩で支配された。
いつまた対峙できるか?着地は本当に大丈夫なのか?問題の一手は本当にできるのか?支配されるとキリがなく、取り留めもなく思考が巡る。それも四六時中。こうなると私自身かなり面倒くさい。結論付けできるほど、この岩の事をまだあまり知らない。
10月7日
登るつもりで再訪。良いトライはあった。実際この日、登れるチャンスはあったかもしれない。でも登れなかった。私自身の内側から発生する雑念が多過ぎた。
この日のトライで全ての雑念は拭えた気がする。そしてこの岩の事が芯まで理解できたように思う。敗退。
通う日々の中で出逢う様々な人達。岩登りなど怪しい事をしているにも関わらず、決まって別れ際には気遣いの言葉をくれる。精神的にギリギリの岩と対峙しているからか、幾度となく励まされた。
何人かは「この静かな山が好き」だと言った。私も同じ。
次登れたとしても、そうじゃなかったとしても、通う日々は続くだろうと。